オナホール・ブラザーフット
馬野ミキ

月曜日はハローワークに行ったふりをした帰りに
キムの家に行きまたオナホールを作った
器となるペットボトルをカッターナイフで切り
片栗粉とぬるま湯を入れ
ダマにならないようにスプーンで混ぜ、レンジで温める
暖めすぎると硬くなりすぎるで途中で何度か取り出してはスプーンでかき混ぜる
熱く固形に近くなった片栗粉に
木刀を挿し
冷蔵庫で冷やす
あとはでんぷん質が冷えるまでプレステをする
古いゲームしかないけれど仕方ない
古いゲームでも繰り返し遊べるよいものはある


おばさんはまた新しいパートを始めたらしい
どうせまた続かないだろうが、あきらめないことは立派だと思う
トイレと冷蔵庫に
あいだみつをの詩が貼ってあり
あんたたちもこういう詩を書きなさいという
キムは顔をしかめ震えるけれど
でも俺はおばさんのお陰であいだみつをが好きになったよ





タモリが若手芸人を相手に少年のようにはしゃいでいる頃
俺たちはほこりのかぶったコンクンリートの階段を昇り
木刀を抜いて
俺はねころんで空を見ながら
キムは端っこでこそこそと
今日作ったものをぶちさしてみる
俺たちがつくった小宇宙を
俺たちの小宇宙がそのまま感じる
気持よくなければ、それは自分のせいだよ







この木刀はキムが小学生の時に修学旅行で買ってきたものらしい
働いていないのに一日中作業着を着ている一階の住人から電動ノコギリを借りて木刀をぶったぎり
最終的には彫刻刀で俺が俺用に成形したものである
やすりで削り、ニスを塗り
その繊細なメンテナンスを俺はたやさない





去年か、俺が木刀を切ってバラバラにしている時
キムは団地の人たちが勝手に作った農園のなかで泣いていた
お前は本当に誰かの頭をかち割る可能性があるからこんなものはない方がいい。
俺は知らないふりで木刀をちんこの大きさに切り分けていった
白髪の、上品そうな顔立ちのアルツハイマーのおばさんが俺を見つめて目をそらさないでいる
俺が見ると叫びだすので、目を合わさないようにしている






詩を上手に書けるということと
オナホールを上手に作れるということは
ほぼ同義語だとみなしてよいと
夜の公園の錆びたエメラルドグリーンのブランコで俺は言ったが
キムは俺ほど真剣にオナホールの成形に集中できない
なぜだろうか?







都営団地の屋上は
人が昇ってくるという設定になっていないので
柵がなく
俺に見られたくないのかどうか知らないが
そんな屋上の端っこで行うキムのオナニーは
俺から見て
ひじょうに危なっかしい
あいつは精子が出たと同時に飛び降りるんじゃないだろうか
何度もそう思ったことがある








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俺たちは屋上に自作のオナホールを並べた
積み木にして遊んだり
あるいはよいオナホールとわるいオナホールでオセロをはじめたり
ピラミッドを作ったり
いくつかは台風の時に飛んでいったが
まだ2,300はある
その一つ一つに瞬間の全体性をかけ
俺たちはどこにも辿りつけなかった







この
霊を慰めに行くために靖国に行こうかと俺は提案した
キムはパピコが買いたいと言った
靖国の近くにもセブンイレブンはあるだろう




途中、右翼の街宣車とすれちがい
キムは怯えた
俺はいちいち怯えてみせるキムに腹がたったので無視していた
キムは言問通りを引き返し
俺は靖国に向かった。





自由詩 オナホール・ブラザーフット Copyright 馬野ミキ 2012-08-22 00:48:17
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