火傷
HAL
『われなんじの行為(おこない)を知る、なんじは冷(ひややか)にもあらず、
熱きにもあらず、われはむしろなんじが冷(ひややか)かならんか、
熱からんかを願う。』《黙示録》
流れる自分の汗があまりに熱すぎる
すれ違い様に腕が触れた中年の男は
呻き声を挙げ腕を押さえかがみ込む
近くのだれかが寄ってきて
凄い火傷だ救急車だと叫ぶ
ぼくには関係ないことだと
ただすれ違った彼奴が悪い
表情も変えずに行きたい方へ
腕時計を確かめ歩みを速める
顔は熱でもう真っ赤なはずだ
そうぼくは沸騰している
血液が泡立つのを感じる
でもぼくは病気ではない
風邪を引いている訣ではなく
マラリアに感染してもいない
もちろんぼくは病気ではない
向かいの歩道を歩いている奴に
ちらりと眼をやると同じ表情だ
互いにちらっと目配せを交わす
もちろん奴の血も沸騰している
体温は何度になっているだろう
でも奴ももちろん病気ではない
もう互いに振り返ることはなく
特別に交わす言葉を持ってない
そうぼくも奴もただ若いだけだ
唇から吐く言葉が刃になることも
分かりすぎるくらい分かっている
そうぼくらはただ若いにすぎない
それが若いと云う証だとぼくらは知っている
ぼくらを怖れる奴等は昔の自分を忘れている
火傷さえ負わす流れる汗の熱さと血液の沸騰
ぼくらを怖れる奴等は若いときの自分をただ失ってしまった
熱きもならず冷ややかにもならず飼いならされたただの犬だ