スターマン
だるま

これはある男性から聞いた話なんですけど、

彼、ここでは仮にA君としておきますけど、
A君は子供の頃、H県のK市というところに住んでいて、そこにはR山という山があったんですね。

そのR山、実は地元ではすごい有名なUFOのメッカで、よくそういう写真が撮られたり、目撃例とかがあったりしてて、
実際、近所のある高校では、「R山を背後に集合写真を撮らない」という暗黙のルールがあったそうなんですね。
怪しい発光体が、やたらと背景に写り込むんで。
まあ、これはテレビかなにかで聞いた話なんで、ホントかどうか知らないですけど。

で、話をA君に戻しますけど、
ええと、彼が小学六年生の夏なんで、いまから15、6年前かな。
当時、A君はエアガンにハマっていて、土曜の午後とか日曜なんかはいっつも山に入って、
空き缶とか鳥とか撃ったりして遊んでたんですね。
で、ある日曜日、その日もA君は昼ごはんを食べたらすぐ、塾の用意一式とエアガンをリュックサックに詰めて、
自転車に乗ってR山に入っていったんですけど、その日はなんか、山の様子がね、いつもと違ってるんですよ。
なんか、普段はなんもないところに、赤やったか黄色やったかのテープが張ってあるんですよ。

でもA君、そのときはまだ別に何も思ってなくて、
「うわー、誰がこんなんしてん、邪魔くさいなあ」って思うくらいで、
まあ普通にそのテープの下くぐって、山の中に入っていったんですね。
だって、そこの山って毎週のように来てるところですよ。そんな危険やとかあるなんて想像もしてないし、
そりゃあ、それがもし近くに警察とかがいたら、さすがに「なんか事件かな?」と思いますけど、
その場所っていうのはホントに山の中の誰もいないところで、周りを見渡しても、別になんもないんですよ。
だからA君も、まあ別にええやろって思って入っていったんですね。

それで、テープの境界を越えて、とりあえずいつも遊んでる広場みたいな草むらまで行ったんですけど、
そこに着いたらね、A君、「あれっ?」と思って。
それが何でかって言うとね、
その広場みたいなところに、なんか全身上から下までアルミホイルみたいな銀色の服に身を包んだ、
ちょうどあの、ファミコンのゲームで『マザー』ってあるじゃないですか、
それに出てくる、スターマンていうキャラクターそっくりなのがね、二人いてて、
そこで一生懸命なんかしてるんですよ。

で、A君、それを見て直感的にね、「あっ、これUFO関連のなんかや」って思って、まあそのへんUFOのメッカですから、
近くの茂みに隠れて、そのスターマンたちの様子をしばらく観察してたんですけど、
そのスターマンっていうのはどうやら宇宙人じゃなくて……、ってまあ当たり前なんですけど、
なんか防護服みたいな銀色のスーツを着てるだけの、普通の人間みたいなんですよね。
それが何で分かるかっていうと、そのスターマン、目のところにはゴーグルみたいな窓があって、
その中に、人間の目が見えてたんですって。
だからA君、「あー、宇宙人やないな」と思って、ちょっと安心して、それでまたじーっと見てたんですけど、
そのスターマンね、なんかよく分からない測定器みたいなのと、なんか棒みたいな探知機を使って、
ちょっとずつ場所を変えながら、どうやら何かを測って、記録してるみたいなんですね。

それがA君いわく、
「その当時、自分に放射能汚染ていう知識があったら、たぶんその防護服見た瞬間に、速攻で逃げてたわ」
ていうことなんですけど、まあ、あいにく彼には当時、そういう知識の持ち合わせがなくて。
で、A君、そのスターマンのことが凄い気になって、「こいつらなにしてんねやろう……」と思ってね、
息を殺しながら、その彼らのやってることを隠れて見てたんですけど、
そしたら突然、
「おい、お前!」
ってスターマンのひとりに気付かれて、
「おい、そこのお前や! わかってんねんぞ! 出て来い!」
って、すごい大声で怒鳴られて、A君、すっかりビビってしまいましてね。
まあ、まだ小学生なんで、しゃあないんですけど。
それでA君、どうしたらいいのか分からなくてオロオロしてるうちに、そのスターマンに捕まったんですよ。

そんでA君、その二人のスターマンに囲まれて、
「お前、どっから入ってん! 立入禁止のテープ張ってあったやろ!」
って言われて、「あー、あのテープか……」とか思ってたら、
そのスターマンのうちのもう一人のほう、怒鳴ってたほうとは違うほうのスターマンがA君に、
「ぼく、このへんはよく来るのかな」
って聞いてきたんですね。標準語で。
それでA君、その標準語に何故かちょっと安心して、うん、って頷いたら、
「あのね、このへんは、本当はすごく危ないんだよ。
 だからおじさんたちはね、みんなの安全のために調査をしてるんだ。
 ぼく、身体にどこか痛いところとか、苦しいところはない?」
って言うんですね。
それでA君が「うん。ない、と……思う」って答えたら、
「そうか、それならよかった。でも、何かおかしいな、と思ったらすぐ病院に行くんだよ。
 それと、もうここには来ないって、おじさんたちと約束してくれるかな」
って言うんです。
で、A君が、なんて答えたらいいか分からなくて黙ってたら、
「……そうだね。いきなりこんなことを言われても困るかな。
 じゃあ、いいものを見せてあげるから、それを見たら何も言わずに家に帰る。
 それでもう、ここには二度とこない。そういう約束でどうかな」
って言うんで、
A君は正直なにがなにかよく分かってなかったんですけど、とりあえず「はい」って言ったら、
その標準語のほうのスターマンが、もう一人の関西弁のスターマンにむかって、
「おい、このぼくにちょっとアレ見せてやれ」
って言うんですね。

それでA君、その関西弁のほうのスターマンに腕を掴まれて、なかば連行されるみたいな形で、
そこの広場の端っこにある茂みのほうへ案内されて、っていうか引っ張っていかれて、
「ほら、これや」
って見せられたものっていうのが、
なんていうか、ゆらゆらーっとした、陽炎のような柱っていうか、
なんかとにかく局地的にモヤモヤッとした、非常に説明しにくいものがね、
地面から、1メートルちょっとくらいの高さまで立ちのぼってるんですよ。

で、A君がそれにちょっと触ってみようとして手を伸ばしたら、
そのスターマンがいきなりその手をガッと掴んで、
「おい!」
って。
「お前な。これ、ほんまは近づくのもあんまりよくないねんぞ。やめとけ」
って、言うんですね。
そんで、A君がビビってたら、今度はそのスターマンが、
「おまえ時計持ってるか?」
って聞いてくるんですね。
だからA君、ホンマはイヤやったけど、なんか逆らったらとにかくヤバそうなんで、
おとなしく自分のしてた腕時計を外して渡したんですけど、そしたらね、
「ええか、この秒針のとこよう見とけよ」
って言いながら、スターマンが、その時計をモヤモヤの柱の中に入れたんですよ。
そしたらね、その時計の秒針が、いままでは普通にチッ、チッ、チッ、チッ、って動いてたのに、
それが急にピタッ、と止まったんですね。
それで、「あっ、止まった」と思ったら、今度はそれがピクピク震えだして、
なんか急に反対向きに回りだしたりしてね、A君が「えーっ!?」って思ってたら、
今度はまた正しい向きに戻って、かと思ったら今度は凄いスピードで回りだしたりして。
とにかくもう、ほんとにメチャクチャに動いてるんですよ。

それが、何が一番驚いたかっていうと、その針が回るスピードなんですよ。
そのスピードていうのがね、もう、時計がバラバラに分解してもおかしくないような、
それこそ車のタイヤとかが回るくらいの、時計から煙出そうなスピードらしいんですよね。
それで、その針が早くなったり遅くなったり逆回転したりする、そういう切り替えの節目っていうのが、
普通は、高速で回転してるものが急に止まったり、逆回転しようと思ったら、
すぐにはピタッとは止まれないし、すごい負荷とかかかるはずじゃないですか。
でも、その時計の針の動きには、そういうのが一切ないんです。
なんか、遠心力とか慣性の法則とか、そういう物理的なのを、いろいろ無視した動きなんですね。

で、A君、それを見てたらだんだん怖くなってきて、これってホンマにやばいんじゃ……って思ってたら、
そのスターマンが隣で、
「なあ、お前、こん中に人が入ったらどうなると思う?」
って、ボソッと言うたんですね。
それでA君が「えっ」って振り返ろうとしたら、
ドンッ、
て背中押されて、
ハッと気がついたら、もう夜なんですよ。
あたりはもうすっかり陽が落ちかけてて、スターマンもいないし、A君、ひとりきりで放置されてるんです。
それが、一瞬ですよ。
背中をドンッてされて、「あっ」って思ったら、もう夜なんです。
時間にして、6時間くらい経過してて、その間の記憶がまったくないんですよ。

それで、周りを見渡したらね、昼間は分からなかったんですけど、
夜になって見たら、そのモヤモヤの柱っていうのが一箇所だけじゃなくて、その近くに何箇所かあって、
それが薄ーくですけど、ボンヤリと白く光ってるんですよ。
で、その柱の周りを、なんか1センチくらいの小さな火の玉がね、いっぱいフワフワ飛んでるんですって。
A君がいうには、あの、大槻教授のプラズマあるでしょ、アレそっくりやったって言うんですけど。
それが空中をファー、ファーっと舞ってたって言うんです。

で、A君、夕暮れ時の真っ暗な山の中を命からがら下山して、やっとの思いで家に帰ったんですけど、
塾を無断で休んだ上に帰りが遅いって、親に死ぬほど怒られて。
必死で事情を説明したんですけど、スターマンの話とか全然信じてもらえなくて、まあ当たり前ですけど、
「あんたなあ、もうちょっとマシな嘘つき!」
って言われて、大泣きして。あれはホンマに辛かった、って言ってましたね。
あと、A君、この出来事があんまり衝撃的だったもんで、学校でもこの話をしまくったんですけど、
やっぱりそこでも誰にも信じてもらえなくて、そのせいで、それから卒業するまでずっと、
クラスでのあだ名が「マザー2」やったのも辛かったわ、とも言うてました。


自由詩 スターマン Copyright だるま 2012-08-19 14:54:55
notebook Home