家族でありたくて
かんな


暑い日が続いている
逃げ水がゆらゆらとして近づけない
今年のお盆を迎えた

斜陽が眩しすぎるかのように
家族というものから目を逸らしていた時期がある
自らの病や
家族を形成する人々の
思いやりの在り処を探しては
見つからずに泣いていた日々がある
誰が悪いわけでもないのに
誰かのせいにし続けていた

今から十年ほど前
兄と姉が同時に大学入学を期に家を出た
その時家は
思いやりを物置に隠してしまったのだ
食卓の雰囲気ががらりと変わり
会話もなく
会話があれば口論でもあり
私はどこにも視点を合わせられず
ひとり宙ぶらりんになり
病んでいった

もし当時の自分に伝えたいとすれば
誰が悪いわけでもなく
ただ時の巡り合わせが悪かったのだということ
そして過去などに捉われずに
ゆっくりと将来の居場所を見つければいいんだよと

それから早十年
今では隣で
夫がすーすーと安らかな寝息を立てている
一年と二カ月
という短い期間の中で
兄そして姉そして私と一生を共にするパートナーを得た
もう姉は一人子供を授かり
私は叔母さんになった
世代ということばはそれほど好きではないけれど
世代交代というのはこうやって進んでいくものだと
時の巡りの早さを振り返った瞬間だった

前置きがずいぶん長くなったけれど
そうして今年のお盆はやってきた
夏の暑い陽射しと
十年間抱えてきたおもいと共に
ご先祖様の墓参りなどに大した興味などないけれど
家族がまた
ひとつの家に集まり
思いやりを取り出しては交換し合う
そういう雰囲気が好きだった
実家に夫と住む私はホストとして
今年のお盆を
集まった皆が家族でありえるような
そんなものにしたかった

八月十四日の夕食時
私と夫は慌ただしく宴の準備をしていた
お寿司を用意し
茹でた枝豆を盛り付け
漬けなすを冷蔵庫から取り出した
コップや小皿を人数分用意し
エビフライやポテトなどを揚げているのは夫
冷やしておいたパインを皿に盛りつけてデザートに
そんなこんなしていると
最後のひとり兄が仕事を終えて到着
さあ始めよう

なぜか父だけがワインで
他はお茶で乾杯
BGMには生まれて一ヵ月の甥っ子の泣き声
リズミカルな旋律に
お寿司をほおばっている兄が反応している
兄のお嫁さんは現在妊娠六カ月
予行練習したらいいよ
抱いてごらんとそれぞれに声が飛ぶ
まんざらでもない兄が甥っ子に近づき
緊張の面持ちで抱いているのを
あーだこーだとはやし立てる

二時間もすれば
お寿司や準備した料理はすっからかん
最後に枝豆やパインをつまんでいる姿がみられる
私と夫は空いたお皿やコップを片付け
台所で手際よく洗ったり拭いたりする
甥っ子の周りにそれぞれに集まり
姉の旦那さんが兄にアドバイスなどしている
チャイルドシートはねとか
入院する時の準備はねとか
何だか微笑ましくて胸があたたかくなった

最後の食器を拭き終わると
私は携帯の充電が切れているからと言って
その場を離れ
夫と一緒に自室に行った
嬉しくて疲れ切って
それでも嬉しくて
わけがわからないほど
さまざまな感情が込み上げてきて
私は夫の胸に顔を埋めて思い切り泣いた

家は思いやりを物置から出してくれた
それぞれが持ち寄った思いやり
きっと
家族でありたくて






自由詩 家族でありたくて Copyright かんな 2012-08-15 17:53:30
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