ゆうえんち
salco

ベンチに四人家族が
あの夏を集めて
薄い木立の向こう
ジェットコースターの嬌声が上がる
奇妙な家族は動かない
リストラを告げられなかった父親は
濃紺のコートを着
行き交う家族づれのさざめきを眺め
マドラスチェックのワンピースの母親は
足元をじっと見
なぜ留置所のサンダルなのか思い返し
パジャマなのが恥ずかしい娘は
言えば悲しむかと
おもらしして眠る弟に肩を貸し
明日えみちゃんにあげるおてがみと
ひみつのヘアゴムを考える


あそこに座る奇妙な家族を
今年も来園客は気づかない
今なら保険金と死亡退職金が入る
プラットフォームで踏み切った夫
支えと先行きを一度に失い
鉄格子にブラウスの両袖を結んだ妻
布団の中で首絞められた二人の子
ぼくは青の風船で
アパトサウルスの国に行くところ
おねえちゃんは一度目を覚まし
ママが泣いていると知った
けれど父は
残した家族に起こった事を知らず
次々と現にのしかかられて母は
悪夢の何を信じてよいのかわからない
八月十四日ゆうえんち
日曜日だった
あの夏を集めて


自由詩 ゆうえんち Copyright salco 2012-08-13 23:52:12
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