八月の小石
小池房枝

人恋し妖かし恋しカラスウリ

流れてく雲の先にも夏の空

炎天下無人の公園カンナ燃ゆ

土星環消失まっすぐ地球見てる
 
涼しさや蔑称幾つか引き受けて

スコールにはしゃいでる子らはプール帰り

うろこぐも空深く怪魚見え隠れ
 
新涼やしゃりりしゃりりとあずき研ぐ


星々にまつろわぬ果ての地球人

駅弁の輪ゴム水色夏仕様

紀の国はみかんの国とアゲハチョウ

あの山を越えれば海か本当か

伏流水今涸れてても川は川

ミヤマカラスアゲハの羽は黒翠り

道の駅さくさくハムかつ雨宿り

彫り出され漆黒の走るカメレオン


ツユクサに紺碧の海のふたかけら

蝙蝠は幸福ぱたぱた飛んで来い

夜のチドリ怪我してるふりで鳴かないで

廃屋の薔薇カラムシにのまれてる

雪州も長崎県下 黙祷す

銅鏡の伊都国 風りん南部鉄

アスファルト色の猫の目静かな夜

黒猫が呼ばれてニャーと去る月夜


水面のさざ波はみな夜の仔ボラ

フナムシもプロムナードで夕涼み

グラジオラス ネジバナみたいにしてごらん

エンジュ散る風に順じて逆らって

ようそろと風にひとひら蓮の花

深夜には海鳴り聞いてる水族館

息継ぎのたびにウミガメ夢あらた
 
紅花を揉みながら染めた西の空
 

オトウサンモドキのような百合の群れ

人に化けそこねて百合に咲いている

ぽっかりと月手放してサルスベリ

瞬かぬ月は妖かし一つの目

サルスベリ百日の火花咲き継いで

月仰ぎ雲湧くがごと百日紅

空あります海もあります駐車場
 
幸くあれと風の手のひら田を渡る

 
向日葵とダリア互いのように咲く

アカマンマあの夏からの御ままごと

秋立ちてキツネノカミソリつっと立つ

何のために生まれてきたのか知っている

さしのべる手を受け止められるはずがなくても
 
井の中に蛙飛び込む水の音

ニンゲンが星に願いをかけるの禁止

彗星の軌道と今年も交叉する


風は風 空は空そして ひとはひと 


俳句 八月の小石 Copyright 小池房枝 2012-08-13 12:23:35
notebook Home
この文書は以下の文書グループに登録されています。
小池萬草庵