生贄
コーリャ



きみがほめてくれた鼻梁のさきから

からだはくさりおちていきます

(崖にたつ風車たちがうつろにめをまわして

入水自殺をこころみるたぐいの


そうして盲いるときは

たとえけつえきに影をながされても

黒人というよりはこくようせき(sic!)にちかい鳥類として

うみべを警備しようってこんたん


夜が氷を燃やした火矢を星空に放ちながら

朝にプロポーズするのを

指さし確認する

というおしごとをします

世界にはいろんなひとがいますからね

なんで生きてるんだろうってひとばっかりですが

みえない精霊と手をつないでぐるぐるダンスしつづけることで

神様にちかづいていく

そんな祈りかたを

いちばんはじめに

祈ったひとをしってますか?

階段の折り返しばしょで

なんとなく

神聖にふるまっているのは

その踊り手へのあこがれからです




ヤクの角でできたカヌーが霧の川をのぼっていくときみたいに

いちばんはじめにこの街の匂いをかいだときみたいに

あるはずもない天国のことをかんがえています

そこにすむ動物の性格

なきごえ

にじの色のかぞえかたや

あらゆるおぞましい地名

ドストエフスキーはそっちでげんきにやってるか

ただ生きてるだけでなにかを盗んでいるきもちになることとか

なにもかも

なにもかもだった




「やっぱり許されたいから?」

とカーラジオのCMがいった

やっぱり許されたいから6月


よぞらにアルミ缶を不可思議個吐きだす自販機とおなじ声質で

踏み切りの遮断機はわめき

あちら側とこちら側を

すらりとした二の腕でへだてた

助手席になげていたポールモールに手をとる

さいきんはどの国でも喫煙者をまるで悪魔の従者のようにあつかうため

喫煙は失明のげんいんになります

という警告文と

アイスランドで食べるブルーハワイみたいな色をした瞳の男が

異端審問官として喫煙者たちを眺めている

めのまえを横断していく

二両編成の列車は

仲良く手をつなぎながら

雑種のしょくぶつがよこしまなことをしている森の奥へと

いみもなくわらいあいながら

かけこんでいった

そのあいだ

ずうっと車のラジオは

季節のはなしをしていた

レモンを半分にきります

片方はすてます

のこったほうを

お皿にそえます

はいどうぞ

これが六月です

ということらしかった




神様は

ひとびとを、はんぶんこにしちゃったそうである

だから私たちはいわば理科準備室の人体模型であり

いきることは

えいえんに放課後をまっていることにほかならず

立たされたままねむる夢のなかで

わたしたちは半身の肌を探しに

いつもたびにでかけているんだよ



と言った



天国では死んだひとたちが

生きてきたなかで

いちばんきれいだった海の話をするそうだけど

海のかわりに僕は、いちばんきれいだった女

の子のことを話すよ



と言った



あなたが死ぬとわたしも死ぬよ

と言った

自殺よくない

と言った

ちがうの

死んだあなたに殺されちゃうんだ

死んだあなたはわたしのすこしのぶぶんを略奪して

しのせかいにつれさってしまうの



と言った



いまも人体模型たちは

せかいじゅうのおおきなまちとちいさなまちを疾走しながら

半身をさがしているんだろうか

とは誰も言わなかった

そのかわり

さよならはちょっとだけ死ぬことだ

と誰かが言った

もしあなたたちのどちらもただしいなら

ぼくたちはさつりくをくりかえすことになり




そして、そして、とつぶやく接続詞がむねにやさしくいだくうちゅうに

ながれる、ながれぼしはいちびょうのあいだになんども死にながら

うつくしかったものをひとつづつていねいに忘れていった

ショートケーキでできた地上に

アイシングシュガーとして流星群の爆撃はふり注いでいた

大気圏を突破したじゅんから

虹色のばくはつをおこす

戦時中にもかかわらず

ひとがしんだりするにもかかわらず

彼女はそんなところからわらいかけてる

流れ星をそのてのひらにうけとるごとに

地平線が歌うみたいに仄かに光る

そう 滅びるってこういうこと!

彼女は駆け出す

もう

うごかないオルゴールみたいな

うごかない遊園地の

うごかないコーヒーカップに

ふたりはのりこむ

聴こえる近さのものでは

みんな気狂いのお祭りのようだったし

きこえないくらい遠くでは

国がチョコレートととして溶けながら滅亡した

かれらはまたどうしようもなく諍う

ひとが死んだらどうなるのか?

天国にはいかない

もしあなたが死んだら?

天国にはいかない

さようならは

天国にはいかない


そしてそしてそして

きみがほめてくれた鼻梁のさきから

崩落がはじまっていったら

すべてのビルがぜつぼうにくずれおちたら

ぜんぶのことばのいみがほどけて

いっぽんのピアノ線になってしまったら

クローゼットのなかには

さんかくすわりの天使がいて

あなたが死ぬまで歌をうたいつづけたら


素敵だなとおもったのですが

たぶん

ビルはおもいのほかくずれませんし

ことばのいみはわりとちゃんとわかってますし

天使とかいない

ピアノもなります

きせきとかもない

それは絶望とすらよんではいけない

魂とかほんとうはわからない

それでも

美しさをぜんぶさしひいたあとの地平に咲いた

なにかを

神聖とかんちがいしながら

生贄でもいいから

生贄でいいから






列車のレールは

水底まで届いていたから

なすがままに列車たちは

みずうみに

音もなくすべりこみ

やっぱり

手をつないだまま浮かんで

そのまま

空を飛ぶさまざまなものを

みつめながら

くるりくるりと

まわりながら

水没してゆきました。 )


自由詩 生贄 Copyright コーリャ 2012-08-11 19:37:48
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