輪(わ)
結城 希
心臓の音が聞こえる
満員の観客席が静まりかえり
演技を見守る
終了十秒前を知らせるブザーが鳴り
最後のタンブリングを駆ける
響き渡る着地の音
フィニッシュを決めた両手は
拳を握りしめた
しなやかな剣先が 胴を捉えた
赤のランプが光る
諦めかけていた観衆が 息を吹き返した
時計の針が止まったかのように
残り一分の戦いが 延々と続いた
三度目のビデオ判定の後、
主審が勝者の名乗りを上げる
歓声が沸いた
積み重ねてきたものが
瞬く間に崩れ落ちてしまう
最上に輝く頂は
容赦なく勝者をふるいに掛ける
ただ、楽しむためだけに
ここに帰ってきたわけじゃない。
七十億の 夢や思いが
ぶつかり合って
いま、この瞬間、
世界がひとつになっていく