ノート(羽音)
木立 悟






わたしは写実をつなぐ
紙に沈む点を見捨てる
森のむこうの森
水たまりにくちづける


紙を裂いたかたちたち
紙を裂いたかたちにつづく
涙を抄い抄われる手が
別のしずくを孕むまで


わたしは橋を落とす
涸れ川に降る雪を見つめる
残骸のなかに
足跡はない


人は否のようだ
歩みは渦を描き
耳をふさいでもふさいでも
手を焼く光ばかりが聞こえくる


わたしは声を射る
口をひらかずに
まばたきが
まばたきでなくなるまで見つめる


岩を登り 母を昇り
帰り道に 父を降りる
鳴らすもののない
鼓が置かれる


文字も絵も壁から剥がれ
空に空に貼りついてゆく
通りすぎるだけの
銀のけだもの


わたしは柱を流す
ほとりの窓がひとつだけ点く
まわり道は戻れない道
命を何処かへ還す道
























自由詩 ノート(羽音) Copyright 木立 悟 2012-08-10 00:00:51
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