忘却の河
灘 修二

水没した廃墟が見える
かつてここは津波にのまれた
多くの人が流され
水に沈んだ

月日が流れた
記憶も流され
悲しみも流された
人々は日々の生業に忙しく
街は活気に溢れている

霧の中の日差しが点になり
川辺に沈黙が漂うと
過去の亡霊が彷徨う

同胞の者よ
俺たちは水になって
形を変えて
生きている
いつもここにいるから
捜さないでおくれ
泣かないでおくれ
そして
けっして忘れないでおくれ


自由詩 忘却の河 Copyright 灘 修二 2012-08-08 22:55:01
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