沈められた瞳
atsuchan69
碧い夢の水面(みなも)を映した瞳は、
ただ見るともなしに忘れられた出来事を想いつづけ
あの日、高い山の頂から眺めた
無数のもがく手と足が遠い海までつづく
静かな、地獄図を見ている
秋の空を姿かたちのない声たちが風のように過ぎてゆき
鍔(つば)の破れた大きな麦わら帽をかぶり
白い長袖シャツを着た藁の案山子が、
羽をひろげた黒い鳥たちにいたぶられながらも
広い畑の真ん中で誰にも聴こえない声でそっと預言をつづけた
――牙、牙、
そしておびただしい数の鋭い爪と牙!
砂浜に転がった木片とか、
黒ずんだガラスの欠片だとか、
壊れた街の一部や
赤く錆びた巨大な機械の残骸や
摩り減ったゴムタイヤだの
流された家屋だの
小さくか細い白い腕だの、
数々の見てはいけないリアルが
まるで猫を被ったような大人しい海の波に洗われていた
あの日、閃光を見たのは幻だったのか?
激しいことばが血だるまになって走ってゆき、
封じ込められていた魔物が
鎖を外された狂犬のように逃げてゆき、
大勢の人が泣き叫びながら、
生きたまま首を刎ねられて殺されてゆき、
人々が安全に暮らす街が、
たちまち忘れられた街と化して
今も呪われた、
微量の悲しみが積み重なっては、
茜色に染まった空を
姿かたちのない声たちが
やがて風のように過ぎてゆく
暴れる、
あの日を、
暴れる、
ことばを、
深い眠りに、
むりやり沈めて