テニアンの少年
月乃助

気温 29℃
風速 3.1m
湿度 78%





鋼鉄の肌に汗がつたう
夜空をきりとった 明かり窓」からの月光
ウラン235の心臓の鼓動


「「 父さん、ここはひどく蒸し暑い  



僕は、この島生まれだけれど
僕のパ‐ツは、海のむこうから送られてきた
刻まれたインディアナポリスの波の 想い出



明かりの消えない部屋
父さんたちは、明日の天気のことに夢中になっている
快晴の空
それを待っている



僕は明日旅立つ
北の島の小さな港町を
死骸の町に変えるため
殺戮兵器
歴史に僕の名前がきざまれる



有史以来誰もなしえなかった
巨きな怒りの 坩堝と化す

46秒間の自由落下
復讐の糸をきられたマリオネット、
アイオイ橋をめがけ
地上600mのその地点で、
僕のうちにはじまる核分裂は、臨界点をはるかに超え
僕は、
光になる そして 
あらゆる憎しみの/悲しみの 熱波・衝撃波・放射線
400,000の人間を焼き尽くす
男も 女も 子供たちも
罪など知らぬ赤子たちも



僕が死んだ日 
その夜 父さんたちは祝杯をあげる
勲章を授与され 赤ら顔で、上機嫌に酔いつぶれる


数え切れない数式と 実験ばかりの
絵のない絵本で育った
戦争を終結するため
「正義」の白衣をまとった父さんたちが 僕を生んだ でも、


僕は、母さんをしらない



復讐心、それが僕の母さんなの いえ
戦争、それが僕の母







「「 母さん、明日僕が死んだら
  そのあと僕は、天国に行けるのですか?












自由詩 テニアンの少年 Copyright 月乃助 2012-08-08 17:20:22
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