嘆きなく
木の若芽

「嘆きなく」
          木の若芽

ゆりの木が鳴る
けやきの木が踊る
とてもさっぱりした風だよ

昨日の風はしっとりとしていた
今日の風はからりとして
いちょうを匂わせ
プラタナスを香らせる
みんなそれぞれに一本一本が
みんなそれぞれの色をもって混じり合いながら並ぶ
大きな木の葉はパサリパサリ
小さな木の葉はサヤサヤサヤ
それぞれの音たてる
すてきですてきで淋しくなんかないな


夏は緑で大地をおおった木たちは
秋から冬に葉を落とし身も軽く自由に
空のものになる

落ち葉を嘆く人は
木が本当は喜びふるえて葉を落としているのを知らない
自分の憂いを投影しているのだろう
だが木は喜んで葉を落としつくす
空のものになるために


ある高い山の頂上から少し下がったところに
少しひらけた原があり
木々にかこまれたくぼ地に水がわき出て小さな湖になっている
そこから山を仰げば白い岩肌に天馬と鳳が刻まれている
湖には木と空の雲や星が鏡のように映る
この水で沐浴し口をすすげば
わたしの魂は木の星座に昇るだろう


首相が誰になろうとも
市場や投資がどう騒動しようとも
富士やヒマラヤや天山がそびえる限り
梓川やガンジスや揚子江が流れる限り
わたしは生きる
木も生きる
魂は鳥になって飛ぶ
緑色の翼と紫色の尾をもって


自由詩 嘆きなく Copyright 木の若芽 2012-08-08 16:24:22
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