忘れ物
たもつ


テーブルの上に何かを忘れてきてしまった
いったい何を忘れてきたのだろう

それは大きなもの
ではなかった
かといって小さなもの
でもなかった
賞味期限が切れそうなもの
でもなく
爆発するもの
でもなかった
放っておけばどこまでも伸びていくピノキオの鼻
のようなものでもなく
放っておけばいつまでも鳴り続けている目覚まし時計
のようなものとも違った

色?
色はついていた気がする

少なくとも
「あなた、忘れ物よ」
と妻から電話がかかってくるようなもの
でないことだけは確かだ

満員電車で派手目なおねえさんの香水に咽んでいるときも
デスクで提出期限を過ぎてしまった調書を作成しているときも
怒鳴る上司の最近少なくなった髪の毛の本数を数えているときも
それは形の無いままテーブルの上にあった

待ち望んでいた終業時間となり
一杯どう?という同僚の誘いも断り
一目散に帰宅する

テーブルの上にはもう何も無かった
時間になると消えてしまうもの
だったのか

それでも諦めきれず
テーブルの下を覗いてみたり
引出しを開けてみたりする

「あなた、何をしているの?」
「いや、別に」

妻に見られては困るもの
だったかもしれない

そういう彼女もどこかそわそわしている
何かを探しているようだ




自由詩 忘れ物 Copyright たもつ 2003-10-24 08:58:15
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