とつきとうか
そらの珊瑚

とつきとうか
出口の見えないトンネルの中を
さまよい歩く気分でした

年中睡いくせに
その眠りは浅く
私は大海に漂う一枚の木の葉のようでした


沈みかかっては(眠りに落ちては)
浮力のために浮かんでしまう(目覚めてしまう)

覚醒している時は
常に気持ちが悪く
水さえももどしてしまいました

とぎれなく吐き続けていると
呼吸ができなくて
窒息しそうになりそうな苦しさでした

実家で飼っていた犬が亡くなり
よその犬を見るたび泣いていました
テレビでドッグフードのコマーシャルを見るたび泣いていました

命の儚さを想い泣いていました
命を生み出すことは死を生み出すこと
その畏れを前にして泣いていました

大きなお腹を抱えた妊婦は
それでもはたから見れば
幸せそうに見えたことでしょう

生来いくじなしの私は
ほんとのことをいえばとても怖かったのです
私に宿る小さな命に私自身を乗っ取られるような気がして

とつきとうか
やっとトンネルを抜け出して見た月は
生涯で一番輝いていたのでした

この世に初めて触れたとき
あなたは泣いてくれました


自由詩 とつきとうか Copyright そらの珊瑚 2012-08-08 10:33:04
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