地下室の悪夢
板谷みきょう

地下のボイラー室に
野ネズミの屍骸があるから
片付けて置いて。お願い

妻がそう出勤前に
言って
出掛けて行った

暮らしを維持させる為に
4ナンバーのサンバークラシック
一台にして久しいはずなのに
全然
暮らし振りが変わらない

ライブ営業廻りの軽貨物に
簡易音響機材やら
衣装やらが、積まれているけど
ライブの仕事は増えていない

ギターだけは
この暑さで積みっ放しに
出来ないでいた

ライブ廻りの営業もままならず
家に篭るような日々が続いている

そのせいか運転席に
蜘蛛の巣が張られていた
そして
巣の真ん中に
小指の先位の鬼蜘蛛が一匹

虫なんか捕れもしないのに
几帳面に巣を張っている

蜘蛛も
今のうちに何とかしなきゃ
きっと車の中で
飢死するに決まっている

昼近く
屍骸の始末に
地下ボイラー室に行くと
干からびたボクが
其処に横たわっていたのだった


自由詩 地下室の悪夢 Copyright 板谷みきょう 2012-08-05 21:25:03
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