魂への修辞
高原漣

名を持たない者たちに識別コードなまえを与えよ

壜のなかはくすぶった魂でいっぱいだ

すし詰めといってもいい。

あたかも薬室チャンバーのように

圧力が上がっていくのかもしれない

その蓋を開けてくれ。

遊底は滑る、列車はホームに滑りこむ

轟音を立てて……

軋む車輪の音、金臭い風が構内を満たす

ギイギイと鳴っているのははたして車輪なのか

それとも……

さて列車に点灯夫が乗車する。

遠く遠くに仕事に行くのだろう

石炭袋をいつも担いでいるような顔をしている

彼の人生は果たして幸福であったろうか?いや、それは誰にもわかるまい

疑うことを知らなかった魂たちが

壜の底で

羽化しそこねた蝉かと見まごう輝きで

見よ、

見よ、刮目して

たましいよ、うなり吼えよ

耳にベルの音が叩きつけられ汽車は出てゆく大地を割って

シュウシュウシュウ……蒸気で悲鳴を上げながら走ってゆく

あなたの魂に安らぎあれ


自由詩 魂への修辞 Copyright 高原漣 2012-08-03 11:51:54
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