おさむとかなめ
salco

よく行く空き地の向かい
おさむとかなめの家はくぼ地にあって
ペンキの剥げた木造平屋だった
変な名前!とからかっていた
一学年上のかなめは面白くて
運動神経抜群だった
兄のおさむは頑丈な体つきの醜男で
呑気でやっぱり面白かった
その上に中学生の
もっとひどい面相のお姉さんがいて
遊んでないので名前がない

我々の呼び声に応え
細身のかなめは飛び出して
大柄なおさむはのっそりと
必ず縁側の方から出て来た
かなめは大抵みどり色の半ズボン
おさむはたいてい黒のセーターを着て
さほど年が離れていないのに
小学生と高校生みたいに見えた
二人が出て来た家の中はいつも
誰かが御飯を食べているみたいだった

雑草だらけの固い庭には
二人が飼う鳩の小屋があった
覗き込んでガヤガヤやっていると
灰色の窓の中から金切り声がしたものだ
「おさむ! かなめ!」
土気色のカマキリみたいなお母さんと話したことはない
近所のおばさん達との井戸端会議も見たことがない
自分の子には優しい声を出す時もあったりするのか
二人に訊いてみたことはない

ある日、かなめが犬を拾って来た
さっそくみんなで見に行くと
茶色い仔犬が縁の下にいた
麻紐で繋がれていて
もうかなめにはなついていた
きっとかなめが小皿にミルクを入れて
何度も縁側を下りて来たのだろう
あのお母さんが保健所行きを下した時は
それはひどいと憤慨して
おしゃれな家でシェルティーを飼う
元宝塚というおばさんが引き取った

中学に入ったおさむは
小学生の目からはグレたように見えた
もう我々と遊ぶ事はなく
かなめを誘いに行くと
大抵おさむの友達が二、三人
縁側に黒い鞄を放り出し
窓に顔を突っ込んでだべっていた
それからほどなく
おさむとかなめは引っ越して行った
何も言わずに
家もすぐに取り壊された


自由詩 おさむとかなめ Copyright salco 2012-08-02 23:47:57
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