冬しか知らない
AquArium
そんな話がしたいわけではないんだ
ロングスカートが
エスカレーターに巻き込まれて
慌てたことも
バッティングセンターで
張り切りすぎて
身体中が痛いことも
*
どうせなら嵐の夜に
騒がしさの中で ん?
と、聞き返せるくらいの
理由が欲しい
鳴り止まない雷とか
激しい雨で、
何処へだって動けない
偶然が欲しい
*
そんな話がしたいわけではないんだ
もう夏だね、と
お祭りや海のワードを
これでもかと駆使しても
僕は細いから浴衣が似合わない
あたしは人混みが苦手、って
無意味に流れていく夏
*
日常に溢れている
都合のいいトピックさえ見つけられない
もどかしさをウブに装う
狡さが欲しい
ただ時計の針が
刻む音の心拍数を
何も憂うことなくやり過ごす、
余裕も欲しい
*
そんな話がしたいわけじゃなかったんだ
あの時の、
世界を変えてしまう
僕らの誤解を
ただときたくて
そうしたら、
話題も会話の間も言葉遣いも
ちっぽけなことになって
心から、
笑えると思うんだ
もう三度目の、夏
はじめての 夏