十階の家族
たもつ




娘は将来アイス屋になりたいと言う
好物のアイスを好きなだけ食べられるから
ではなくて
沢山の人を幸せにしたいからだそうだ

いっしょにお風呂に入ると必ずその話題になって
バニラ、チョコ、抹茶、ミルク、クッキー&クリーム、
いちご、もも、ぶどう、ばなな、マンゴー
ようやく足し算を覚えた指で
店頭に並べるアイスの種類を数え始める
その都度、微妙に種類は異なる

ある日、アイス屋の建物が二階建てになった
一階でアイスを売って二階は喫茶店にするらしい
しばらくすると三階建てになった
一階を花屋にするというのだ

二階にあるアイス屋なんて誰も入らないよ
と大人としてしごく当然に意見すると
だってお花があった方が綺麗じゃない
と彼女としてしごく当然の理屈で切り返す

日に日にアイス屋の建物は高くなっていった
一階 花屋
二階 アイス屋
三階 喫茶店
四階 おもちゃ屋
五階 レンタルビデオ屋
六階 本屋
七階 レストラン
八階 映画館
九階 音楽室

そして今、私たち親子三人は十階に住んでいる
美しい海と大きな富士山が見えて
いつも涼しい風が吹いている

やがて娘も一人でお風呂に入るようになり
恋をして
結婚するのだろうが
その時も私たちはいっしょに十階に住んでいるのだろうか

女房にその話をすると
それなら十一階建てにして二世帯にすればいいじゃない
なんて笑う










自由詩 十階の家族 Copyright たもつ 2004-12-11 17:43:03
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