ねむる
木屋 亞万


ねむる
すこしずついのちになりながらねむる
より細かに
よりおおきく
体ができていく

ねむる
この身ひとつのせかいのなかでねむる
じぶんの鼓動がひびく水のなか

ねむる
はじめての呼吸につかれてねむる
鳴いて泣いて
辛うじてねむる

しわしわの顔がかわく
水でみちていた肺もかわく
かわきはじめることが
快でも不快でもある

ねむる親のよこで泣きわめく
どうしてもかわきにたえられない
あんなにも体内が水でみちていたのに
あたえられるのは栄養のある乳ばかりで
うるおうには飲んでも飲んでも足りはしない

ねむる
なつかしい体温につつまれてねむる
トントンとたたく手
ゆらゆらと揺れる腕
ねむりにすとんと落ちていく

ねむる
ねむることがしごとだから
ただただねむる

ねむれなくて
せなかがむずがゆく蒸れて
こらえきれずうった寝返りが
思いのほかよろこばれてねむる
よこ向きのままねむる

はいまわりつかれてねむる
歩きつかれてねむる
食べつかれてねむる
日が暮れたのでねむる
なにもなくてもねむる

ねむるたびにそだつ
ねむるたびにあたらしくなる
ねむればなれる
ねむろう
ねむる

ねむる
ねむる


自由詩 ねむる Copyright 木屋 亞万 2012-07-27 20:50:26
notebook Home 戻る