羽化少年
塔野夏子

透明な祭壇の上で
君は羽化する
私はただ見あげ見つめるだけ

君は羽化をくりかえす
私はただ見つめつづけるだけ
君はそのたびごとにちがう羽をひろげて
   雨の羽
   砂の羽
   旋律の羽

脱ぎ捨てられたさなぎ
そのたび君の足元へとほろほろと崩れ消えてゆく
   果実の羽
   影の羽
   水晶の羽

君を見いだしたそのときまで忘れていた
少年とは少年であるかぎり
果てしなく羽化をくりかえすものであると
   破片の羽
   叫びの羽
   流星の羽

そうやって奇跡さえたやすくくりかえす
そのあやうさをきっと君自らは知らない

見あげ見つめる私の目の前で
君はいまあざやかに夏の羽をひろげる





自由詩 羽化少年 Copyright 塔野夏子 2012-07-23 21:08:30
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