「もう少しそのままで」
ベンジャミン
変わることよりも
変わらないでいることのほうが
難しいと知った頃
変わることと変わらないことは
まだ等しいままだった
やがてその違いに気づき
そして変わることが失うだけでなく
変わらないことも失うだけではないと
ようやく心が理解した頃
変わることと変わらないことは
それでもまだ等しかった
※
あれからどれだけの日々が流れて
そして変わることで得たものと失ったものと
変わらずに得たものと失ったものたちを
想像という張力で思い浮かべる
質量を持たないものばかりだから
何を尺度にはかればいいのかわからない
得ることがかならずしも善でなく
失うことがかならずしも悪ではない
そんなことにも気づいた頃
まだ何も知らなかったときの自分が
とても懐かしく思えた
※
無邪気に微笑んで
無心に何かを追いかけて
息がきれそうなくらいかけまわっていた
何が正しくて何が間違いで
失敗や成功をただそのままに受け止めて
泣いたり笑ったりしていた
ただそのままをただそのままに
ただそれだけのことで埋めつくされた
ただそれだけの日々がただそれだけでなく
どれだけ心を軽くしていたかなんて
まったく気づかないまま
そんな頃を思い返していた
そんな頃があったことが遥か遠くに思えて
もう少しそのまま
遥か遠くの自分を
もう少しそのまま
懐かしさの中で近くに感じていたかった