ワンセズ アポン ア トータス
salco

ロンサム・ジョージ、ロンサム・ジョージ
溜め息みたいにふっ と死んだ
ロンサム・ジョージのニュースを知って
何億人かの人間が
溜め息吐いたことだろう
お前は何の為に生きたのだろうね
手当たりしだい殺される
どの機会にもたまたま遭わず生き延びて
子孫を生すべき仲間を食われ
子孫となるべき仲間も食われ
それも知らずに一〇〇年間
最後の1匹うろうろ歩いて
何かを探して?

ロンサム・ジョージ、ロンサム・ジョージ
あいつに時間の観念はなく
けれどあれほど長く生きたって
あの生命力を寿ぎたいと
こちらで誰も思わないのは
ひとりぼっちだったからで
あいつの仲間を1匹残らず平らげたように
底なしの貪欲と止まり知らぬ破壊力とで
膨張を続ける人間の少なからずが
その存在にシンパシー
よしんば罪悪感を覚えていたとして
そいつの知ったことでなく
種を繁殖で継いで行くことわりを
自ら意思で拒否できるのも
人間だけの世界の話

ロンサム・ジョージ、ロンサム・ジョージ
くたばったお前の重たい亡きがらを
運んではく製にでもし博物館に配置して
人間は後の世代に遺すのだろうさ
勝手に付けた呼び名だけど
ロンサム・ジョージ、さようなら
勝手に与えた境涯だけど
最後の1匹
お前の知ったことでなく
神の真似する生きものに
お前がこうむっただけのこと
山と積まれた本の中
「むかしむかし、あるところ」
また1つ、この惑星の固有種が
ふっ と消えた


自由詩 ワンセズ アポン ア トータス Copyright salco 2012-07-16 23:54:25
notebook Home 戻る  過去 未来