胸の番人
殿岡秀秋

嫌なことがふりかかると
時計仕掛けの人形のように
鳩尾のあたりに
現れるのは
何だろうか

黒い服を着て
蒼い顔をして
胸の中央に漏斗を置いて
彼は悲しみの液を注ぐ

注がれてぼくの胸の前の方が
棒のように硬くなり
重くなり
痛くなって
うなだれる

液が胸から溢れても
注ぎ続ける不幸の番人

ぼんやりして
考えられなくなって
ぼくの頭の天辺で太鼓が鳴りだす

五月蝿くて
鳥肌が立って
頭がゆれだすので
ぼくは招きよせる
幸福の番人を

彼はきっと空色の服を着て
赤い顔をしている
鳩尾の上に
小さな円い舞台を置き
音楽にあわせて
踊りだす

ステップが
筋肉をゆらし
さざ波となって
全身に広がり
悲しみの液を
躰の先端にある浜辺に寄せていく

足の先はしびれ
指の先はとんがり
唇はゆるみ
髪の毛は三本立つ

心地よい音楽と悲しみの
波は逆流して
胸に戻ってくる
ふっと
舞台が
明るくなり
番人が
陽炎のように
浮き上がる











自由詩 胸の番人 Copyright 殿岡秀秋 2012-07-15 05:49:15
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