恋しや/殺めたしや
岸かの子

木枯らしが冷たい夜を運んでは
僕の処へ置いてゆく
仰ぎ見る丸い月に心も奪われ
僕の存在まで不確かな
無様なものへと変えてゆく

トロトロに蕩けた女への愛情が
女と男の狭間で揺れる橋のようだ
川の流れに身を任せ
ゆうらゆらと
流れてみようか

赤い襦袢が肌けているその隙間に
桃源郷を連想するのは
危なげなものだろうか
愛おしい人よ
三つ指ついて出迎える前に
そっとその白い指で
慰めてはくれまいか


自由詩 恋しや/殺めたしや Copyright 岸かの子 2012-07-14 01:36:14
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