故郷へ、/断章
青木怜二

 夜明けの、薄青いフィルムに/色あせた紫陽花のつぼみを真似て/青いジャージを着てる/人が、向こうの田んぼに立ってる、靄のように/点々と、静まる家々の窓が灰色にかげる/まなざしを、向ける

 水を引いた田んぼの、灰色がかった寝顔に曝す陰部を/自涜する、指先から透き通る/黒い春殖がびっしりと埋まっているのが見える

 (ひき、ひき、ひき、ひき、)((ぐびびっ、ぐびびっ、ぐびびっ、ぐびびっ、))

 脈打って鳴く/産まれなかったものどもが夏、/ 脱ぎ捨てられた青いジャージが軽トラックのハイビーム・ライトに焼き切られ、靄のように/立ちのぼる、薄青いフィルムの剥がれた窓が朝焼けに燃えて哄笑する

 (((げべれげべれげべれげべれ! げべれげべれげべれげべれ! )))

 その日、紫陽花のつぼみのうえを這いつくばるカタツムリの群れを見つけた村人たちは祭りの準備に精を出した。舐め尽くされ溶けてしまった紫陽花は根元から刈り取られ、今は道ばたで乾いている。


自由詩 故郷へ、/断章 Copyright 青木怜二 2012-07-12 13:36:17
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