指先が触れて
wako
?
私がつかもうとしたのか
私の砂漠へ
日常のほんの小さなすき間から
思いがけず吹き込む風のむこうの
荒涼とした世界
あなたがつかもうとしたのか
あなたの常識へ
瞳に映る乾いた世界に
病的な輝きを見たのか
錯覚がつくり上げる幻の
日常のひずみから転がり落ちて
乾いてくすんだ日々を彷徨う
白い骨が転がって
失望の数だけ
逃げ水が輝く
朽ちていく記憶の最後の煌きの様な
たどり着く事のない風景が地平線に揺れて
妄想を増殖させるだけの
砂嵐に吹き曝されて
うずくまって砂をつかむ
こんな世界で
握りしめた熱い砂
記憶を込めた砂
指を開けば
サラサラと
私がつかもうとしたのか
こちら側へ
あなたがつかもうとしたのか
そちら側へ
指先が触れて
微妙な
バランスで
?
もつれ合って落ちたのは
静寂が支配する空間
箱庭の様に自由な世界
砂漠の砂ではない砂敷きつめて
牢獄の様に閉ざされた自由の世界
見えない壁をはりめぐらせて
私達は言葉を紡いで
紡いで、紡いで、紡いで
私達の空間を築いていった
小さな決まりをいくつも置いて
小さな習慣を根気よく積み重ねて
小さな喜びをあちこちに仕掛けて
信頼を育んでいった
時を積み上げていった
あれは小さな城だったのか?
ある日
私達が区切った空のむこうから
かすかな音が伝わってくる
わずかに空気を震わせて
確かに何かが
私の背後に
小さな黒い点を見て
あなたは落ち着きを失っていった
そして
それが鳥の形になるのに
そう時間はかからなかった
足もとの砂は崩れ始め
足を取られてくずおれる
鳥の姿に魅了されたあなたは
寝ても覚めても空を見上げて
あれは闇夜に飛ぶオオジシギの声
闇に目が見えないなんて
誰が言ったの?
夜の静寂を切り裂いて
冷たい夜風を震わす羽音
あれは遠くから来たミズナギ鳥の声
距離は関係ないなんて
誰が言ったの?
何千キロも飛んで、飛んで、飛んで
冷たい海の上で力尽きて
鬼気漂わせて
あなたは空を見上げる
?
月が満ちて、欠けて
満ちて、欠けて
あれから
永遠とも思える時が流れた
終わりのない時と折り合いをつけるために
何の努力ができただろう
羽もなく
闇を恐れる私達は
距離も
夜も超越した
時さえも
もう鳥の声は聞こえない
あちらの世界の鳥達の
もう何の記憶とも結びつかない
何かが目の前を横切るけれど
あれ程濃密に流れていた空気は
かき分けて喘ぐほどの空気は
今では淡々と流れて
夜が来て
冷たい風が吹き始めると
無意識に月を待つ
満ちて、欠けて
満ちて、欠けて
東の空に昇る満月は
実際よりも大きく見えて
月も
・・・あなたも
私達はそれぞれの