お天道様の呼び声
まーつん
文鎮が
ふうわり ふわりと宙に浮き
驚く書生の顔前を ナマコのように漂って
原稿用紙が舞い上がり
驚く書生の目の前で 舞子みたいに踊りだし
万年筆が身悶えし 書生の指を逃れ出て
ぽとりと机に落ちた後 芋虫よろしく這い出した
゛物思いなんて おやめなさいよ
悩むことなんて 何もない
表に飛び出し 遊びなさい
今日はこんなに いい天気゛
か細い声で合唱し ムズムズ震えて鳴きながら
四畳半を漂う文鎮 宙を練り歩く紙の群れ
床の上を 机の上をと這いまわる
万年筆や鉛筆や 消しゴム クリップ ホッチキス
安く黄ばんだ白熱灯が 畳の上に落とす影
オバケみたいに群れ動く 薄灰色のマダラを描く
原稿用紙に綴られた 青いインクの明朝体が
一匹いっぴき立ち上がり 甲高いときの声を上げ
けたたましく笑いころげながら 畳の上を走り出す
゛遊ぼうよ 遊ぼうよ
僕らを表に連れてって
お前の頭は窮屈だ
僕らを表で 遊ばせて゛
書生は部屋から飛び出して 寮の廊下を走り出す
開け放たれた戸口から 文字と文具があとを追う
笑いながら 囃しながら 若い男のあとを追う
゛いいぞ詩を詠む 若人よ
世を儚むのは はやすぎる
お天道様が呼ぶ声が お前の耳にも聞こえたかい?
お天道様の呼び声が お前の耳にも届いたかい? ゛