大人にな◯ない
TAT
枕元のタバコとサイフと携帯をかき集めて
ついでに目を二個と鼻とか口を持って
化学の二限目に挙手をして
トイレにがっくりへたりこんで右手の甲を三度焼いた思い出がある
熱いと熱さは痛みに成るらしく
熱いより痛かったような印象が強い
何かその後はもごもご言いながら
タバコ臭い息で授業に戻ったんだと思う
あんまりスペシャルな記憶が無いから多分そうだろう
憶えてる事と言えば
タイルのケツの冷たさと焦げた手の痛み
個室の隙間から射し込んでくる細い黄金の中に泳ぐ陽の埃
かすかに聞こえるロバのパン屋のカセットだった
あれから十年経って
すっかり僕も大人になってたら
神様も文学も窓辺の少女も要らない訳で
車を運転してホームセンターで
シリカ電球とタオルを二枚買ってきて
裸電球を握ったまま手にタオルを巻いて
今度はそれをブーツで思いきり踏もうというのだから
これは本格的に病気だ
まぁ珍しい疾患の一種なんじゃないの
奥歯で噛む用のタオルも用意しているぐらいだから
誰に迷惑かける訳じゃなし
好きにさせてやろうよ
ドン!
『ぐんっ…!!!!』
ってガマガエルが冬に射精するみたいな絞り声と
脂汗で
まぁ重大な血管は切れてないだろさて
外科に行こう
片手で運転しながら血に染まる右手は痛いなんてもんじゃあないが
手品みたいに取り出したタバコに火を付けて
左にウインカーを出した
『よっしゃ、転職すんべ』
と
実際に声に出して言ってみた
履歴書と職務経歴書を入れたら
封筒のとじしろには
ボールペンで小さく◯を書こう
どうせおんなじしるしなら
×より◯の方がいいもんな
おまじないみたいなもんだ