夜めぐる夜 Ⅳ
木立 悟
冬のあぶく冬の蒼
橋を洗い水を洗い
よどむ流れの背をつまみ
波を姿に押しもどす
膝の上
水の爪
氷そそぐ水
灯の下の無音
そこに封じようとするこころみ
そこから出ようとするこころみ
逆まく
風の毛なみ
誰も住んでいない街の道は
空に洗われ 綺麗に静かで
よごれた窓だけが
話しつづけている
水の底にしか現れない花
目と星と海を結び
編んでも編んでもとらえられない
火の貝殻のつぶやくうた
喉にいくつ花を落としても
言わないひとは何も言わない
見たこともない服を着て
誰のものでもない笑みをうかべる
森が硝子の器を携え
自らの子を差し出すとき
いいのだ もういいのだと
誰も言ってはやれないとき
水は水につながらず
島へ島へわだかまり
けして何かを追おうとはせず
ゆるやかな曇りの循環を視る
蒼は蒼に起ち上がり
何処にも居ない城を照らす
此処に在るのは光の苦み
巡るものだけが知る痛み
羽が四ッ足を透りぬけ
冷たさは碧にひるがえり
過ぎて過ぎて 五つめの荒れ地に
かたちにならないよろこびとなり
石の葉から石の葉へ歩み 倒れて
たとえ水音にさえ嘲笑われても
名を持たぬものは降りそそぎ
ただただただただ積もりつづける
呪いのように波のように
壊れた灯だけが照らす道には
石に彫られた文字を読む雨
かつて住んでいたものたちへ
土へ土へ 沁みこんでゆく