夜めぐる夜  Ⅲ
木立 悟





標を砕いた
白い轍を
船が昇る
すぐに
消えてゆく


光の棘や 岩の双六
花でも羽でも在る息の
葉ひとつ分にそよぐ場所


乗るものもない交響
川を下り 雨を呑み
抄うかたち 銀を吐き
手のひらにすがりつく音を見る


陽とは知らず
陽を目指す影
天体の残骸
天体の産声を浴びながら


数えまちがい
塗りまちがい
鏡の向こうを知りすぎて
からだが
からだとからだ以外を行き来する


火口に降る羽
傾いだ森を
押しつづける指
みな異なる器を持って


うたを忘れ
街を蒼く塗り
弾くものもない弦楽器
門の前に置いて去り


咬もうと身構える七の道
海へ灯へ 海へ灯へ分かれ
雨のあとに残される国
白と黒と灰 むらさき摘む風


笑みは水にあふれ出る
そこには失い船を追い
片目のために
片目の空を打ち寄せる


曇わたる橋
蒼ばかり過ぎ
何処にもゆかず
何処へでもゆく


空の水はぎざぎざ遠のき
まだ少し背をまたたかせている
知らぬ間にころがる細い筆
水のかけらと呼び合うもの


橋からこぼれる光たち
袋の集まりのような暗い水
海がひとつではないことを
知ってか知らずか笑みまたたいている



























自由詩 夜めぐる夜  Ⅲ Copyright 木立 悟 2012-07-07 21:24:23
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