あらかじめ病んだ人
ゼロスケ

軌道敷に寝転がる
路面電車は通らない
あれは蜘蛛だろうか?
建物の上を行きかって
無数に果物かごを落としている
むせかえる原色
道路を染め上げ
光の薄い通行人が
潰れたバナナで滑った
散歩する犬の揺れるふぐり
尿瓶と吸い飲みを
満載して走るトラックの地響き
地べたに近づくとよく見える
群衆にまぎれているあれは
どうしたって悪い夢だ
肌がレールと感応して
背中に汗疹ができた
それはこの路線で多くのことが
おこなわれたのを意味する
蜘蛛の巣と果物かごの網の目の
内側の内部ひとつひとつの充実についての
冷えた論証が要る
りんごをつかんで砕く
ぶどうが破裂される区画
見舞いの対案を示せよ
汚い道路の中レモンを拾って
身体中の穴から涙をしたたらせ
女子高生はなぜ行くのだろう
ああ帰りたい
故郷の海へではない
荒れた田んぼに立ちズブズブと静むイメージ
果物たちが連れ戻す旅人は野花を配っていた
「末黒野に立ちて怒涛を追いかける」
脳の隙間を昆虫の触角がまさぐった
ように思った
顔を上げた
穏やかに市電がせまっている
これで終わりか
カーテンを開ける


自由詩 あらかじめ病んだ人 Copyright ゼロスケ 2012-07-07 13:21:45
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