雨の跡
灰泥軽茶

道路を歩いていると
クワガタが一匹転がっていた
手のひらに乗せて眺めると
綺麗な姿は無駄がなく音もなく
生きているのか死んでいるのかわからないので
こつこつ指先で叩いてみると

ギザギザの歯をショベルカーみたいに
オートマチックな動きで
開け閉めして
また艶よく佇む

このまま持って帰ろうかなと歩きだすと
手のひらに
ぽつぽつと鼓動が打ちはじめ
黒い殻から温かさが伝わりはじめたので

やっぱりこっちのほうがいいかなと
湿る葉っぱ
木のそばに
ひょいっと空中回転させ草叢に返した

雨の跡から匂いがする
虫たちの声がする
季節が流れていく音が体の中で蠢く
夏がもうすぐやってくると言っている

そうして濡れた舗装道路を歩きながら
ふらりとコンビニに寄り
氷菓子を齧り
ゆっくりと指先から夏の予感を放出して
帰っていった


自由詩 雨の跡 Copyright 灰泥軽茶 2012-07-05 00:55:33
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