白桜鬼
木立 悟
人のいないところばかりが豊かなので
人ではない人は首をかしげた
どうして自分は
豊かではないのだろう
顔も名も
家族も憶えられず
波だけを数えていた
溺れては飛ぶ
光を見ていた
金の葉 指先
野の波 こがね
全部 散る
全部 散ってゆく
煙も霧も
冷たく消える
誰もいない路が
響いている
風と黄金
拾うことのできないかがやきを
夜でも昼でもない明るさを
ひとつひとつ呑みこんでゆく
何も映さない午後の硝子が
午後を映しはじめるその時
岩の口笛
雨と波 雨と波
水の上の花
口をきかず
空をまわし
曇を置き換える
白い桜が
行方を覆う
行方なのか
わからなくなる
到かない百のうた
常に到く数兆のうたにまぎれ
泣いている
泣きながら
鬼になる
何もかもあふれ
静かでいる
此処が此処であるように
ひとかけらひとかけらを捨てながら