乙女椿
渡 ひろこ

向き合った途端、一瞬たじろいでしまった
あまりにも真っ直ぐに見つめられて
ファインダー越しに覗いた
淡いピンクの大輪


千重咲きの奥に守られている花芯は
何か語りた気に
唇をうすくほころばせている


その秘められた思いを手繰ろうと
小さい芯のあわいを剥いても
雄しべは無いという
結ばれぬ乙女の夢は
隠されたままに


薄曇りの切れ間から射す光
翳した小枝
葉脈が透けて見える

無垢な微笑み
まろく花弁を撫でる風
盛りをはにかむように微かに揺れた




(エッジの効かないこの大気にも
ガイガーカウンターでしか測れない
何かしらの線量が含まれているのだろう
いつか容赦ない平手打ちを喰らうかもしれない)



それでも今日出会った可憐な花は
巡ってきた季節と
柔らかな接吻を交わしていた


彼女は散り際まで凛と咲き誇る
どんな贖罪を纏うとも
唯々、美しく開花したことに打ち震えて






自由詩 乙女椿 Copyright 渡 ひろこ 2012-07-02 20:01:37
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