つづきのない山女(やまめ)の話
月乃助
「「 牛丼の並、コールスロー付で・・・
「「 はい、A定 一つはいります
時はしらずに 十四年をかさね
昔とすこしも変わらぬ オレンジの看板
丸いスツールにすわり
空色の袋におさまった ひまわりの鉢植えをカウンターにおく
小さな花は、場違いなそこで すこしそわそわ
落ち着きがない
ここは、今も花の飾りがない 男たちの店らしい
この花は、今夜
眠ることのできない 重く沈んだ少女のもとへ行く
私は、この黄色の花に頼んだ
ほんのすこしでも 少女が笑顔をみせてくれることを願って
少女のそばに いてくれるように、
/狼になりたい/できるなら/いちど
背の毛をさかだて
牙をむき出し
少女の背負わされたものを ガツガツとかみ砕く
私は、一枚の鏡 の 狼になろうとする
うつるものはすべて 正確に把握し 投影しては、咀嚼する
ほんのわずかな 罅割れも この中ではゆるされない
/おーい/ビールはまだか
カウンターの向こうで、ポロシャツの男が
うな重をたのんでいた
メニューもさまがわりするという ことらしい
「「 ありがとう ございました
外は、休日の街
都会の中途半端な なまぬるい風が、ふいている
渓流の流れにさからう魚のように
それを肌にうけ 流れに 流されてしまわないように
高架のガード下をぬける
「「 おまえは、ひとりで吉野家にはいれるんだな・・・
あの頃の 彼の屈託のなかった笑顔を思い出す
その時 背に声がした
すこしのあいだ 思い巡らし
気づいた時は、とまどい
ためらい
そして、・・・・・・・・・
つづく