a ice air ship
Akari Chika

白いミルクに 足先を浸す
グラスに浮かんだ 臆病な飛行船は
午後の温度に溶けていく

飾りだけの生活や
苦し紛れの性格に
飽き飽きしたころ
夏の気配を感じた

ノートの罫線に陽の光が差して
十字の欠片が生まれ、消える
あの音楽はいまごろ
どんな人に
愛されているのかな

調べを述べるほど
心は漂着する場所を求めていない
誰彼かまわず
ことばの脈は継がせない

わたしを隠して
この大きな雲の下に
窓から見えるわたしをどうか見つけて
上手に隠してね

幹の皮がはがれていく
衣服は落ち葉のように
足元で吹き溜まりになっていく
風が止んだら
そこには
言葉の炭だけが残った

雨からも
虹からも
借りたものがある
遠い昔にも
未来の寄る辺にも
伝えておきたいことがある

そっと靴を脱いで
緑が肌を這う感覚に
いっそ呼吸ごと
芽吹いてしまえばいいと

誰のからだでもない
でも誰かの呼び声
水泡を閉じ込めたメロディに
紡ぎ出すものがある

ひとくち舐めたら
わたしを隠してね
濡れたコーンの端に甘い感触が残っても
小さな舌の影に
わたしを隠して

気流がしたたる軒の下
どの陰もまとわない
わたしをどうか見つけて
熱い紅茶の鏡に
映らないわたしを見つけて

そこから
新たな息が
切り拓かれるから

鳥の継ぎはぐ音
ささやき
ことばの炭が
空へ燃え移る

冷凍庫に並ぶ
臆病な飛行船が
グラスへ波紋を落とすころ

何も焼き付けない

写真を
白紙にもどすように

わたしは






自由詩 a ice air ship Copyright Akari Chika 2012-07-01 11:31:33
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