雛鳥
takano
崖のしたに絶望がよこたわり
覗きみる誘惑に息を止めて一瞥をおくる
鋭い嘴が視界を横切り底無しの暗がりへまっすぐ降下する
わたしは両足を地面につっぱたまま 後ろ髪を引かれた
時をしらせる電子音が鳴る
自制の磁石がはずされて 歩きだす
彼方からかすかにとどく鳥の高音をきく
諭されるように
渦巻いてふるえた旋回の輪がほどかれる
ふいに記憶の扉がスライドし、焦がれていた金比羅さんの船着き場が浮かんでくると、しかかった旅支度の煩わしさが緑に染まり、足早に別れを告げる
首人形をぶらさげて櫂をこいでいると鬱蒼としていた山の脈が開かれてくる、かわって赤土の断面が現れ、立ちふさがるように、間近に迫り仁王だちする
どこからか 風の声がきこえてくる
水平線は すでに眼前に広がる陽光をたたえ、鎮座する大海とあやうくただよっている
おとなう潮のぬくもりにつつまれる
白亜の絶壁は 幼い雛たちを小指に侍らせ 親鳥の帰りを待っていた