混沌
望月 ゆき

ところどころ淀んでいる、日々のあわいに
用意された長椅子に座ると、
世界が淘汰されていく
眼前には池があり、蓮が眠っている


見たことのない男が隣に座り、
見たことのない水母の話を続けている


朝露がしばしば、わたしに偏在し、肩を濡らす
風邪をひかないようにと 差し出された
男の言葉を着ようとすると 不必要に
袖ばかりが長く、余る
泡が、浮かんでは消え、
水母のように、相槌をうつ


そういえば、昔
蓮の花は、咲くときに音をたてるのだと
わたしに教えたのも、この男だった
ような気がして、いとおしくなる


朝が近づく気配がして、わたしは
椅子から立ち上がる 
男にさしのべて、繋ごうとするわたしの
手首から先が 見当たらない





「詩と思想」3月号掲載作品



自由詩 混沌 Copyright 望月 ゆき 2012-06-30 16:53:28
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