混沌
望月 ゆき
ところどころ淀んでいる、日々のあわいに
用意された長椅子に座ると、
世界が淘汰されていく
眼前には池があり、蓮が眠っている
見たことのない男が隣に座り、
見たことのない水母の話を続けている
朝露がしばしば、わたしに偏在し、肩を濡らす
風邪をひかないようにと 差し出された
男の言葉を着ようとすると 不必要に
袖ばかりが長く、余る
泡が、浮かんでは消え、
水母のように、相槌をうつ
そういえば、昔
蓮の花は、咲くときに音をたてるのだと
わたしに教えたのも、この男だった
ような気がして、いとおしくなる
朝が近づく気配がして、わたしは
椅子から立ち上がる
男にさしのべて、繋ごうとするわたしの
手首から先が 見当たらない
「詩と思想」3月号掲載作品