忘却
HAL

ひとはだれでも忘れられていく
忘れないでと言われても
忘れないと誓っても

最初はその顔も憶えていたのに
少しずつ歳月が流れると
時の鑢に削られていくように

顔立ちは輪郭だけになり
いつしかその輪郭さえも
想い出せなくなり
そうしてだれかのことを忘れていく

そうきみも同じ
そう彼奴も同じ
そう彼女も同じ

みんな忘れられていく忘却のもの

もちろんぼくも同じ
すでにぼくがいたことさえも
もうだれも思い出しはしない

ぼくは いた
ぼくは いた
ぼくは ここにいたと

声を枯らして叫んでみても
その絶叫は闇にすらも拒否される
だれの耳にも拒絶されるだけのこと

でも嘆くことはない
きみが望みつづけた
ぼくが憧れつづけた

きみもぼくも
ただの無になるということだから

もちろん時代も世界も宇宙も
なにひとつ代わることなく動いていく


自由詩 忘却 Copyright HAL 2012-06-27 05:15:55
notebook Home 戻る