M 2012
たま
すこし太った と
しわだらけのあなたが言う
たしかに
しわの数はへっていないけれど
わずかに 浅くはなっている
一年ぶりに 団地にUターンしたのが良かったのか
また
独居老人になってしまったけれど
十九で双子の姉を
二十一でこのわたしを 産みおとし
二十八で夫を亡くし
それから
ひとりで生きてきた
がまんを転がすようにして育てた息子は
ことし 五十才
年末の寒波が身にこたえたのか
ひとり暮らしの部屋はさむい と
めずらしく弱音をこぼした
あなたがいま 一緒に暮らしたいひとは
娘でもなく
息子でもなく
さきに逝ってしまった父だと
気づいたのは つい最近のこと
おかしなめがねかけてなぁ と
息子の老眼鏡を覗いて
くすっと、笑った
おかしかったのはめがねではなく
すっかりおいやんになってしまった
息子の顔
それと もうひとつ
あなたが覗いたのは
三十四で死んだ父の 初老の顔だ
母よ
のこり少なくなった がまんを
わがままに変えてもいいから
たくましく生きてほしい
あなたがいつ逝っても
この息子は 後悔などしない
年老いた
父のすがたになって
あなたを 見送ってやれるのなら
ようわからん息子や と
とぼけた顔して
また 笑うかもしれないけれど
学校へ行け とは
ひと言もいわなかったあなたが
十八のわたしに
アタマとチンボは生きているうちに使え と言った
あの日から
あなたは母であることを捨てたのかもしれない
しわだらけの父になる日は
まだ とおいけれど
母よ 百まで生きてみないか