六月の駅から
もっぷ

軽い手荷物で降り立った
六月の駅
梅雨の晴れ間
見あげると若い鮎が
翼を休めていた

炎上、
前の雰囲気のなかで
穏やかに営んでいる街路

山羊のこどもに
みちをたずねると
右だという

真っ直ぐではない
とつけたす山羊

に頷いて
お礼に微笑みを
置いた

ロータリーで一人の
目立つ老婆を見かける
背中には黄色いランドセル
靴はまだ白い
「茜音行き」のバス停に並んでいたが
しかし程なく到着したそのバスには
乗らなかった

わたしは左を選び
真っ直ぐなそのみち
を歌を連れて
歩み始めた

星屑が容易く手に入ると思ったから

だがどこまで行ってもアスファルトに塞がれ
転がっているのはいまとこれからを
ひたすらに案じる記事のあふれた
新聞紙ばかり

興味本位にそのうちの一枚を拾ってみると
右が正しいとの判決が下された
という海難事故の記事がトップに踊っていた

、思いっきり
笑い転げたくなった嬌声をあげて

このままここで餓死させてくれないか!

六月の駅からの
わたしの軌跡のこのまばゆさよ!

若い鮎
山羊のこども
ランドセルの老婆
の写実で
手荷物がすっかり
重たくなってしまった

生まれて初めて
気がかり、というものを知った

けれどこの駅で下車したことにも
左のみちを選んだことにも
後悔だけはなかった

気がかりというものの新鮮さに
ただ打たれていた
それは澄んだ水滴となって
空から落ちてきた
やがて落雷を伴う激しい雨となり
傘を持たないわたしを
思いっきり殴るほどになった

好きな、だけ

と雨雲に伝え
真っ直ぐな左のその涯への旅をいま
続けています


自由詩 六月の駅から Copyright もっぷ 2012-06-24 21:19:58
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