くつ下
ヨルノテガム






くつした、片方しか履いてないな

寒くないよ 臭くないよ 探す気はないよ

色違い履いてみようか あれなんだか
さみしくなっちゃうね 三足目や四足目も
ほしくなっちゃう 五足目も違った色々で ね

足、貸そうか 
ワタシの足片方、貸そうか
くつしただけ履いたままエッチするのは、どう?
やっぱ あし 貸さない
そういえばくつしただけ履いた裸婦像って
見たこと無いね 今までの裸婦像全部に
くつした履かせてみたいね 白いやつ、どう?
どーでもいいわ でもくつしただけだと
ちょっと間抜けさんで 幼さも残るね



片方のくつしたは旅に出ていた
脱ぎ置かれた死角から 隠れたのだ
洗濯物干しからの卒業。津波による浮遊。
倒壊した原子力施設からの避難。死の街、無人の街からの
脱出。くつしたいっぱいの募金。くつした分くらいの虚無。
スマートに隠せない、五本の足指に似た人の悪意欲望裏切り
騙し搾取、そして或るのか無いのか小指の先ほどの、希望。
人間らしさとは、本来酷く救いようのない地獄絵図なのだろうか
中空に浮いた巨大な砂の城が、穴の空いたくつしたの先から
流れ落ち砂時計みたく形を失う
もう、くつしたさえ 穴の貫通した曲がり角のある布の筒となる
未来の見えない望遠鏡、もしくは未来を予見予知する
想像する為の道具、そして たまに先を閉じ足に履いて
進み歩くもの。

くつしたよ、お前は何を見たんだ?




(アン、アン、ダメぇ)

(くつしただけ履いたまま くぱぁ しちゃうぞー )

(アン、バカ、ダめぇぇぇ ぁっぅ〜〜っ〜! )


その、くつしたは考えていた
帰って来たもう片方とともに考えていた
もし 津波や天災、人間の悪をあらかじめ予見予知
できていたとしたら、被害は抑えられたかもしれない
この被害というのは精神的ショックを主に見据えて
いるのであるが 
くつしたは思う われわれはちっぽけだ
人間の負の歴史と切り離して生きていた
汚れ汚く、ずる賢い、生存競争の中で世界を個別化していた
「綺麗で美しく」は 本当の綺麗で美しくではなかった

いやまてよ 先に穴の空いたくつしたは穴を閉じる

何を包み隠して 何を見 何を褒めるのか

世界を何処まで広げて どの意志を感じるのか

臭くはないのか お寒いことはたぶんあるだろう
むしろお寒いことばかりだ、それを知って、も。





帰って来たくつしたは、もう片方のくつしたが
居なくなっているのに気づく 捨てられたのか倒れているのか
いや 探しに行ったのだ
わたしの見つけられない答えのピースを 

それを ちゃんとわかり 見届けてやりたいと待つ
順番だ










自由詩 くつ下 Copyright ヨルノテガム 2012-06-23 07:15:47
notebook Home 戻る