くつ下
ヨルノテガム
くつした、片方しか履いてないな
寒くないよ 臭くないよ 探す気はないよ
色違い履いてみようか あれなんだか
さみしくなっちゃうね 三足目や四足目も
ほしくなっちゃう 五足目も違った色々で ね
足、貸そうか
ワタシの足片方、貸そうか
くつしただけ履いたままエッチするのは、どう?
やっぱ あし 貸さない
そういえばくつしただけ履いた裸婦像って
見たこと無いね 今までの裸婦像全部に
くつした履かせてみたいね 白いやつ、どう?
どーでもいいわ でもくつしただけだと
ちょっと間抜けさんで 幼さも残るね
*
片方のくつしたは旅に出ていた
脱ぎ置かれた死角から 隠れたのだ
洗濯物干しからの卒業。津波による浮遊。
倒壊した原子力施設からの避難。死の街、無人の街からの
脱出。くつしたいっぱいの募金。くつした分くらいの虚無。
スマートに隠せない、五本の足指に似た人の悪意欲望裏切り
騙し搾取、そして或るのか無いのか小指の先ほどの、希望。
人間らしさとは、本来酷く救いようのない地獄絵図なのだろうか
中空に浮いた巨大な砂の城が、穴の空いたくつしたの先から
流れ落ち砂時計みたく形を失う
もう、くつしたさえ 穴の貫通した曲がり角のある布の筒となる
未来の見えない望遠鏡、もしくは未来を予見予知する
想像する為の道具、そして たまに先を閉じ足に履いて
進み歩くもの。
くつしたよ、お前は何を見たんだ?
*
(アン、アン、ダメぇ)
(くつしただけ履いたまま くぱぁ しちゃうぞー )
(アン、バカ、ダめぇぇぇ ぁっぅ〜〜っ〜! )
その、くつしたは考えていた
帰って来たもう片方とともに考えていた
もし 津波や天災、人間の悪をあらかじめ予見予知
できていたとしたら、被害は抑えられたかもしれない
この被害というのは精神的ショックを主に見据えて
いるのであるが
くつしたは思う われわれはちっぽけだ
人間の負の歴史と切り離して生きていた
汚れ汚く、ずる賢い、生存競争の中で世界を個別化していた
「綺麗で美しく」は 本当の綺麗で美しくではなかった
いやまてよ 先に穴の空いたくつしたは穴を閉じる
何を包み隠して 何を見 何を褒めるのか
世界を何処まで広げて どの意志を感じるのか
臭くはないのか お寒いことはたぶんあるだろう
むしろお寒いことばかりだ、それを知って、も。
*
帰って来たくつしたは、もう片方のくつしたが
居なくなっているのに気づく 捨てられたのか倒れているのか
いや 探しに行ったのだ
わたしの見つけられない答えのピースを
それを ちゃんとわかり 見届けてやりたいと待つ
順番だ