「完成しない、今」
ベンジャミン
建築現場の鉄骨が
空の重さに耐えている
(昼下がり)
子供たちがホースの水で虹をつくる
二階のベランダから身をのりだす猫
視線の先には鳥が羽をやすめている
建築現場では低いうなりが
少しずつ何かを積み上げ
そして少しずつ何かを壊してゆく
(夕暮れ)
子供たちは家のあかりに吸い込まれ
猫はとっくに諦めて寝ているだろう
昼間の虹は茜色の空にとけてしまう
それでも
建築現場の鉄骨はまた少し空へ
どこまでも届くことのない空へ近づく
やがてどっしりとした建造物になって
空の重さなど忘れたかのように
人々を吸い込んでゆく
そうやって日々は
何かがつくられてゆくたびに
他の何かが崩壊してゆくことを
静かに忘れさせようとする
(真夜中)
今日という記憶をしまいこむために
そうやって静かに眠ろうとするけれど
崩れていったものたちの小さな破片が
ちくりちくりと痛むから
たぶん明日も
巨大な鉄骨が打ち込まれるたび
完成しない、今が
果てしなくつくり続けられてゆくのを
生きものたちはただ
見つめることしかできない