バス停
さち

「ジョーさん、なんさい?」
「32」
「おれーにじゅーきゅーさーい」
夜もふけたバス停に馬鹿でかい声が響く


 酔っ払っている
 明らかに酔っ払った29歳という青年
 いや
 青年という言葉の持つ清々しさより
 グダグダになっている大きな子どものよう

 ジョーさんなる32歳のほうは
 さすがに落ち着きを保っている
 酔って機嫌良さそうに しかし
 そのグダグダをたしなめたりする


「ジョーさん職人?何のー?」
「今は建具屋」
「建具ぅ〜?」
「リビングのドアとか。クローゼットとか。」
「ふぅ〜ん。」


 全く無関係の私にも個人情報が流れてくる


 いきなり
 後ろに並んでいた私に缶ビールを突き出し
 「開けてくれます?深爪なもんで。」
 (グダグダめ、深爪か・・・)と余計なことまで知ることになる



 行儀が悪いといえば悪い
 しかし どこか可愛らしかった
 酔った人間はやっぱり無防備だ
 始末が悪いがやっぱり可愛らしい

 バスが来て人が降りるちょっとの間
 開かなかった乗車口の扉をノックしたりしている
 ひどく真面目そうなおじさんに
 「うるさいっ!」と叱られる
 「んあ、すみませーん!」と謝る
 その声がまたうるさいと叱られる


 なんだか面白く眺めている私は たぶん
 ずいぶん歳をとったんだな、と思う
 夜遅く1人でバスに乗ることも
 急に差し出された缶ビールに動じないことも
 酔っ払いをかわいいと感じることも
 真面目に怒ってるおじさんを笑いながら見てることも

 たぶん
 私が歳をとった証拠なのだろうと思う


自由詩 バス停 Copyright さち 2012-06-19 09:32:28
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