三つの短い散文詩
海里

へべれけなベレニケ、すっぴんのスピカ、女神の両天秤、淑女な織女
エジプトの王妃ベレニケは出征した夫の無事を祈ってその髪を神々に捧げましたがそれでも心配で心配で毎日お酒を飲まずにはいられませんでした。農業の女神デメテルの娘ペルセフォネは化粧っけのなさがかえって可愛らしいそばかす娘です。正義の女神アストレイアの天秤は黙認というか何というか微妙なところで女たちが男どもを両天秤にかけることの正義をも主張し、織姫ヴェガがオルフェウスの竪琴に緯糸を掛け織り上げた薄物は光線の加減によっては今にも透けて見えそうなくせにそうそう透けてみせてくれるものではなくまたそれこそがエレガンスとエロスの源なのでした。はい、これは全て星々の物語です。へべれけなベレニケ、すっぴんのスピカ、女神の両天秤、淑女な織女。


チューリップ、red two lips
なんでチューリップのことチューリップっていうのか知ってる?昔々いたずらなキスが大好きな春の妖精がいてそこいらじゅう何にでもキスしては飛び歩いて飛びまわっててとうとう神様に叱られた。ちょっとは反省しておとなしくなれと赤いふたひらの可憐なくちびる、その可愛らしくて可憐なくちびるだけ残して唇おばけにされちゃってでも毎年春が来るたびに赤い花ひらいてひのひかり浴びて笑い声ひろげて春のピアノひいて全然反省してなくて神様も笑ってしまってその花がその通りに咲くのをそのまま放っておいているわけ。ね?チューリップのキッス。


コンステレーション☆コンサート
星空には星が広げてある。ちりばめられてはいるものの象嵌されてるわけではないので星だけを残してテーブルクロスよろしく空を引き抜く練習をしたりすると大変だ。がっちゃーんざばざばざばといろいろ落ちても来るわけだ。下にはたいてい海が広がっているのでたいしたことにはならないが拾い集めて配り直すのは手間がかかる。とくに今宵はコンサート。コンステレーション・コンサート。今さらあらたな星座を立ち上げるのでは作曲も演奏も追いつくまい。へたくそなマジシャン、引き抜くのであればたった一日で埃まみれになってしまう真昼水色の化繊の壁紙。人間たちには今日の日没はあっという間だったなぁなんて言わせておいてそれからシルクハットから真っ新な星空を広げて見せて。


自由詩 三つの短い散文詩 Copyright 海里 2012-06-18 21:50:46
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