FLUCUTUAT NEC MERGITUR
HAL

言えなかった言葉が余りに多過ぎて
溢れようとする言葉で喉が詰まる

失わなかった愚かさが余りに多過ぎて
嘔吐を覚えるほどに胃がせり上がってくる

落としてきたのものが余りに多過ぎて
どのポケットを弄ってみても衣服の屑だけ

忘れてしまいたいことが余りに多過ぎて
気がつかないうちに記憶が心から遠ざかっていく

もう取り戻せない歳月が余りに多過ぎて
その激流のなかで息を求めて口だけが開く

どうしてこうなってしまったかはもう考えない
どうせ自業自得だし もしそれがぼくの宿命なら

それはそれで構わないとぼくは想う
宿命であるならもう抗うことは辞めて

漂えど沈まないならそれはそれで好いじゃないか
そうならばぼくの人生もきっと捨てたものじゃないと想うだけ








※作者より
ご存知の方も多いと想いますが念の為に記しておきます。
FLUCUTUAT NEC MERGITURはラテン語で
訳すと《漂えど沈まず》と云う意味になります。
パリがまだルテチアと呼ばれていた頃から
FLUCUTUAT NEC MERGITURはパリが標榜する
街のスローガンとしてこう掲げるようになったと云うことです。


自由詩 FLUCUTUAT NEC MERGITUR Copyright HAL 2012-06-17 21:34:18
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