はんぺん踊り
灰泥軽茶
夕暮れ
石ころが転がる河原で
ひとりのんびりビールと
割り箸に刺したはんぺんを
七輪でささっとあぶり
ちゅるちゅる呑みこんでいると
対岸にオレンジ
鬼火が屋台の提灯のように
等間隔に浮いており
遠くから祭囃子が聴こえてきた
対岸にはひとり
浴衣姿で絹のような肌をした
小さな小さな老婆が
腰をうんと曲げ
てのひらをうんとかざし
よくとおる甲高い声で
はんぺんぺん
はんぺんぷかりとぷのんぺん
はんぺんぺろりとふらっぺふらっぺ
はんぺんぺん
はんぺんほのじのましゅまろよ
はんぺんぺろりとほいっぷほいっぷ
と
調子を合わせながら
ゆらりゆらり
歩いているような
流れていくように
袖からは蔦を絡ませ夕顔を
しっぽりと薄紅をしゅるり
しっぽりと浅紫をしゅるり
しっぽりと瓶覗をしゅるしゅるりと
小さな小さな老婆は唄い踊りながら
地面を引きずってずっていき
やがてすべては夕闇に滲むように融けていき
辺りは真っ暗になっていった